2020年08月の投稿
重陽の節句 菊花を楽しむ
とも藤 佐藤朋子
9月9日は菊花を楽しむ重陽(ちょうよう)の節句。菊に長寿を願います。今年、とも藤では「着せ綿」2種と茱萸嚢(しゅゆのう)を準備し、菊花酒を楽しむ為の盃を飾りました。
着せ綿は本来、真綿で色は白、赤、黄の3色を用意します。真綿(まわた)は蚕の繭からつくられた繊維で絹です。木綿が伝わるまで綿と言えば真綿でした。
とも藤では手芸用品店で購入した羊毛をつかって着せ綿風につくりました。1つは片木に並べ、もう1つは菊の花に被せます。被せるのは菊の夜露を真綿に移したもので顔や身体を拭うと長寿になると言われているからです。
重陽は五節句の中でも、正月(人日じんじつ)、上巳、端午、七夕にくらべて知名度の低い節句です。私も子供の頃は重陽を知りませんでした。菊の花に長寿を願う、菊花酒を楽しむというのはどちらかというと大人向きの節句のように思います。
数字には陰と陽があり、偶数が陰、奇数が陽です。1桁の数字で一番大きな奇数が9であり、9月9日は「陽の数字が重なる」ことからこの日の節句は「重陽」と呼ばれています。
「源氏物語」や「枕草子」にも重陽について書かれているように平安時代、宮中では儀式として貴族達によって様々に楽しまれていました。鎌倉時代以降一旦廃れたものの、宮中ではかわらず行なわれていたようです。江戸時代に正式に五節句の1つになると、菊を楽しむ節句として武家から庶民まで盛んに行なわれるようになりました。
江戸時代の重陽では「後の雛」として3月にしまった人形を虫干しもかねて再び飾ったそうで、近年この習わしを復活しようというムーブメントがあります。とも藤でもお雛様を飾っています。
さて、茱萸嚢についてもご紹介したいと思います。春先に咲く山茱萸(さんしゅゆ)という花があります。私はこの花が好きで、毎年楽しみにしています。優しい黄色の花です。
山茱萸は秋になるとグミに似た赤い実を付けます。この枝が中国では縁起が良いもので、茱萸嚢には赤い実がついたこの枝と菊の花を指し、袋のなかにはお香として「呉茱萸」を入れます。「呉茱萸」は漢方にも用いられ厄よけの意味合いもあります。平安時代には重陽の日の前日に御帳の柱に5月に掛けた真の薬玉と架け替えました。
あでやかな菊の魅力は人を惹きつけるものですが、若い頃にはあまりわからず、葬儀や法事などを連想する古めかしい花の印象でした。今では雛道具にたっぷりと描かれた菊を好み、菊の花弁が織りなす優雅な佇まいに胸がときめきます。
2020年8月28日〜31日 4日間
はまぐり貝合展
クイントアートハウス/煎茶器会館 東京
*こちらの展示会は延期となりました。
蛤と観月
観月、お月見は、旧暦の8月15日(十五夜)、旧暦9月13日(十三夜)に行なわれます。特に十五夜は中秋の名月と呼ばれています。
名月の日に満月を鑑賞する風習は平安時代に唐から詩文とともに伝わり、『中右記』によると十五夜の夜、白河上皇をはじめ、数十人が船に乗り込み、楽器を奏で酒を楽しみ、和歌を吟唱(節を付けて唄う)したそうです。また、当時さかんに催されていた「歌合」にも観月が取り入れられるようになり、多くの観月の和歌がつくられる場となりました。
貴族の風流な遊び、行事であった観月は江戸時代になり、広く庶民の間にも広まりました。唐から伝わった十五夜ですが、「後の月」として十三夜もあわせてみるようになったのは日本独自の風習と言われています。これは日本の気候風土に合ったもののようで、日本では十五夜のころ、台風が来て月が見れない年があるため、十三夜も合わせて観月としたのかもしれません。いずれも収穫のあるころで、秋の実りを感謝し、ススキとともに月見団子や栗、果物などをお供えします。
さて、江戸時代の人々は月見の夜には蛤のお吸い物を食べたそうです。蛤と言えば3月の雛祭りに食べるのが知られていますが、実は蛤、晩春から夏期にかけて産卵期に入り、繁殖後は味が落ちるということもあり、禁漁とされています。中秋の名月の頃に禁漁が明け、ちょうど蛤のシーズンが始まり、いわゆる「初物」を食べて縁起をかつごう、ということでしょうか。葛飾北斎の「蛤売り図」には雲に隠れた満月が描かれており、江戸時代の月見に蛤が欠かせない食材であったことをかいま見ることが出来ますし、三代目歌川豊国の浮世絵「葉月高輪」では、女性がススキとともに蛤をかご一杯に入れて売る様子が描かれています。
今では十五夜に蛤を食べる風習はほとんどなくなりましたが、とも藤では十五夜の蛤として、当時の人々に思いを馳せて、お月見の貝合わせをご提案してゆきたいと思っています。
オリジナルの貝合わせをつくりませんか。とも藤では実際にゲームが出来るよう、貝殻の横幅のサイズ、柄をあわせた12個セットを販売しています。内側は金色に彩色していますので、アクリル絵の具やマジックなどで絵を描いて自分だけのオリジナルの貝合わせセットをつくってみてください。こちらの動画ではルールや蛤の貝殻の取り扱い方をご紹介しています。
*動画のなかで、貝殻の並べ方に付いてご紹介していますが、一周目12個から9個づつ同心円状にではなく、7個づつ9列の間違いです。ですが、貝合わせ遊びはその時々によって遊び方が自由に変えられる遊戯です。堅苦しくなく楽しんで遊んで頂ければと思います。
*また、貝合わせ遊びは古くは「貝覆い」というのが本来の名称ですが、江戸時代頃から「貝合わせ」と呼ばれるようになり広く貝合わせと言われていることから、こちらの動画では「貝合わせ」としてご紹介しています。平安時代の「貝合わせ」は「物合わせ」という遊びの一種で、「歌合わせ」として遊ばれていました。